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広島県立美術館 特別展「北斎の富士−冨嶽三十六景と富嶽百景」

掲載日:2015年12月1日
 江戸後期の絵師・葛飾北斎(1760−1849)の名を不動のものとした『冨嶽三十六景』。北斎は生涯、ありとあらゆる画題に取り組み続けましたが、『冨嶽三十六景』は浮世絵に風景画というジャンルを確立した金字塔といわれています。また、『冨嶽三十六景』の刊行後には、故事説話も取り入れた『富嶽百景』を完成させていますが、本展は、この二大連作・全148点を一堂に紹介するという珍しい趣向になっています。

 『冨嶽三十六景』には、眺める場所や季節、天候によって見え方が多彩に変貌する富士の姿が描かれています。高層建築が無かった当時、江戸の至る所から見えるその泰然と屹立した富士の形象に、今日とは違った強い親近感を人々は覚えていたそうです。
 なお、『冨嶽三十六景』のうちの1点《諸人登山(もろびととざん)》には、富士山への信仰心を持つ人々が集まり、集団で富士に登拝する「富士講」の様子が描かれていると云われています。この『冨嶽三十六景』が生まれた時代は、泰平の世が続いた江戸後期。五街道や宿場町の整備が進み、花見や名所めぐりなど、庶民はより四季折々の行楽を楽しむようになりました。江戸の町で流行したこの「富士講」も単純に信仰心だけに依るものではなく、富士への登山が行楽として楽しまれ始めていたことも示しているそうです。
 版元の西村永寿堂は、そうした時代の潮流も鑑みて、北斎に富士の連作を描くよう依頼。西洋から輸入されたばかりのベロ藍(=プルシアンブルー)という顔料を用いることで、清々しい青色が印象的な『冨嶽三十六景』という名作が生まれました。
 他方、錦絵である『冨嶽三十六景』の完成後に冊子本として制作された『富嶽百景』では、墨の濃淡を見事に使い分け、富士誕生の神話的場面から始まり、花鳥画から故事人物画まで、様々な意匠をこらした富士の姿が表現されています。

 なお、北斎は若い頃から高い評価を得ていたにも関わらず、『富嶽百景』の初編跋文(ばつぶん)のなかで自作について「七十年前画く所(=70歳以前に描いたもの)は実に取(とる)に足(たる)ものなし」と述べています。齢70を越えた円熟期の北斎による二大連作を一挙まとめてご覧いただくことができるこの機会。新年の縁起担ぎも兼ねながら、浮世絵における頂点ともいえる北斎の富士を眺めに、美術館へお越しいただいてはいかがでしょうか。


■「北斎の富士−冨嶽三十六景と富嶽百景」
【期間】2016年1月2日(土)〜2月14日(日)
【会場】広島県立美術館(広島市中区上幟町2-22)
【開館時間】9:00〜17:00 会期中無休
※金曜日は19:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで
【入館料】一般1,100円(900円)、高・大学生700円(500円)、小・中学生400円(200円)
※( )内は前売・20名以上の団体料金
【問い合わせ先】
広島県立美術館082‐221‐6246

『冨嶽三十六景』より《凱風快晴》 文政(1818)末〜天保(1830〜44)前期


『冨嶽三十六景』より《諸人登山》 文政(1818)末〜天保(1830〜44)前期


『富嶽百景』より《登龍の不二》 天保6(1835)年