トップページ> オンラインマガジン
オンラインマガジン
バックナンバー一覧
ブンカッキーが聞く「広島市現代美術館 殿敷侃展」

掲載日:2017年3月15日
ブンカッキー(以下、ブ):同展の主役・殿敷侃さんの生い立ちについて教えてください。

学芸員さん(以下、学):殿敷侃さんは、1942年に広島で生まれました。1945年8月6日、広島に原子爆弾が投下された時、彼は疎開先の世羅郡にいました。彼の父は爆心地そばの広島郵便局に勤めており、数日後、母、姉とともに市内に入りますが、父の姿は見つかりませんでした。その5年後には、母が亡くなり、姉とともに親類のもとで育てられました。高校を卒業すると、国鉄に勤めましたが、62年、肝臓の病気のため長期療養を余儀なくされます。その時、入院先の病院で開催されていた絵画教室に参加したことがきっかけとなって、美術制作をはじめました。

ブ:殿敷さんの作品・作風について教えてください!

学:殿敷さんの作品は、絵画作品に始まり、その後、銅版画、シルクスクリーン版画へと表現方法が移り変わりました。原爆によって亡くなった両親の遺品を描いた絵画や、身のまわりの小さな生き物や日用品をモチーフにした銅版画は、非常に細かい、細密な作品でした。シルクスクリーン版画は、写真をそのまま原稿として使い、それを大きく拡大させることができます。そうして、大きく刷られた版画を沢山並べるなど、展示空間全体に広がるような迫力のある作品を制作するようになりました。その後、インスタレーションと呼ばれる、空間全体を作品とした、観客を包み込んでしまうような大規模な作品へと展開していきます。その際、殿敷さんが素材としてよく用いたのは、海岸に打ち寄せられた漂流物、それに、古タイヤやプラスティック製品のゴミでした。こうした漂流物や廃棄物を、美術館の庭や展示室にまき散らすように配置したり、たくさんの古タイヤを高い木の枝に掛けたりすることで、展示が終わるとなくなってしまうような作品を多数発表しました。これらのインスタレーション作品が、作家一人の手によるものではなく、地域と人々と協力して作られることであったり、環境問題をテーマとしていたりすることによって、近年あらためて、その活動が注目を集めています。

ブ:様々な作風を持つ殿敷さんの作品を、同展ではどのような形で展示・紹介するんですか?

学:今回の展覧会では、先に説明したような、殿敷さんの作品の様々な展開をすべて紹介します。絵画や版画の作品は、それぞれの代表的な作品を展示し、そして、作品そのものが残っていないインスタレーション作品については、写真や映像による記録と、印刷物や模型など関連した資料を展示することで、実際の作品やそれらが作られていく様子を思い浮かべていただけるような展示にします。

ブ:あと、ボクが気になったのは、今回のタイトルにある「逆流」。その真意とはなんですか!?

学:殿敷さんがかつて出版した作品集『逆流する現実』から引いた言葉です。人々が忘れ去ってしまったり、その価値が軽く見られているようなもの、そのような社会のなかで脇に追いやられた存在が、人々の意識の中に強引に押し戻され、現れてくる様を指している言葉だと考えられます。作風は次々と変化させていった殿敷さんですが、脇に追いやられた存在に意識を向けようとする姿勢は一貫していたように見えます。

ブ:これから「殿敷侃展」を見に行くみんなのために、見どころやお勧めの観賞の仕方を教えてください!

学:殿敷さんはいろんな手法に次々と挑戦していきました。その過程で、何を表現するために新しい方法を選んだのか、ということや、新しい方法を手にすることで、作家の中でテーマがどのように深められていったのか、といったことに注目してください。そうすると、一見まったく違う表現のように思える作品にも、一つの流れが見えてきます。そして、新たな作品を作り続けることで自分自身のテーマを掘り下げていった作家の姿が見えてくるのではないでしょうか。

ブ:最後にもうひとつだけ質問!殿敷さんの作品というわけじゃないんだけど、現代アートをどのように観賞したらいいのか、いつも悩んじゃうんだ。現代アートは、どのように楽しみ、どのように受け取ればいいですか?

学:現代アートは、今の私たちと同じ、現代を生きる人によって生み出される表現です。殿敷さんの作品で言うと、忘れ去られようとしていく原爆の記憶や、環境破壊といったテーマは今日の私たちの暮らしにも関わるテーマですし、かしこまった美術館のなかにゴミがばらまかれたような展示に痛快さを感じることもできるかも知れません。作品を通して遠い過去を思い浮かべることも楽しいですが、より身近な存在である現代の作家によって作られた作品は、共感を抱くにせよ、違和感を感じるにせよ、普段の自身の感覚と照らし合わせて接することができます。また、社会の有り様をテーマにした作品では、それらを通して、私たちが生きるこの時代や世界が、どのようなものであるのか、ということを教えてくれることもあります。そして、様々な世界の見え方がありうる、ということを知ることで、自分自身で考え行動していく勇気が沸いてくるのだと思います。

ブ:学芸員さん、色々教えてくれてありがとうございました!現代アートって難しいイメージがあったけど、なんだか身近な芸術なんだね!みんなも、「殿敷侃展」を見に行って、「逆流」を実感してみてね!

殿敷侃:逆流の生まれるところ
会場:広島市現代美術館(広島市南区比治山公園1−1)
開催期間:2017年3月18日(土)−5月21日(日)
休館日:月曜日。ただし、3月20日(月・祝)は開館、3月21日(火)は休館。
開館時間:10:00−17:00(入館は16:30まで)
観覧料:一般1030円(820円)、大学生720円(620円)、高校生・65歳以上510円(410円)
※( )内は前売りおよび、30名以上の団体料金
※5月5日は高校生無料
問合せ:082−264−1121

《釋寛量信士(鉄かぶと)》1977年


《カニ》1978年


《タイヤの生る木[Plan.7]》1991年/写真:中本修造