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令和3年度早春の展示「商い・遊び・祈り−木簡が語る中世−」

掲載日:2022年1月4日
 中世瀬戸内の港町である草戸千軒町遺跡の発掘調査は、中世考古学の先駆けとして、町や人々の姿を明らかにするとともに、新たな歴史像の構築に大きな役割を果たしてきました。
 暮らしぶりを示す数多くの出土資料の中に木簡があります。記された文字を読み解くことで、「いつ、どこで、だれが、なにを、どのようにした」という人々の営みをうかがい知ることができるのです。そして、港町では、人や「もの」が集まり、物品や金銭の様々な取引が行われました。情報や流行も伝わって来たり、周りへ広がったりした場所です。こうした港町の特質が、出土した木簡の背景にあったことでしょう。
 物品や金銭の取引の際に木簡が用いられました。記された地名・人名、物品名、行為、数量・金額、日付などの文言から、取引の実態が明らかになってきました。中には、金銭の貸付け、元金と利子、返済の期限、元利の回収などの経過を記すものもあります。中世は、商品の流通とともに貨幣による取引が盛んになった時代で、木簡はこうした社会の姿を反映しています。
 また、茶や香に関わる道具が出土しており、これらを嗜む人がいたことが分かります。そして、茶や香の種類を判別する遊びである闘茶や聞香の際に用いられた闘茶札(とうちゃふだ)・聞香札(もんこうふだ)も出土しています。当時の流行の文化として、この町に受け入れられたのでしょう。
 さらに、亡くなった人の冥福を祈るとともに、病気・事故・災害などの災いを取り除き、安全・健康・幸福な暮らしを願っていました。このことを示す出土品に、板塔婆(いたとうば)・位牌(いはい)・呪符(じゅふ)・御札(おふだ)などがあります。これらを人々に授けたのは、仏教・道教やまじないなどについて専門的な知識を持つ者だったでしょう。
 このように、木簡に記された文字を読み解くことで、商い・遊び・祈りなど、中世の生活や社会の姿が鮮明なものになってきました。また、草戸千軒の町が「くさいち」(『太平記』に「草井地」として登場)と呼ばれていたこと、この町に金融業者である「土倉」に通じる名前を持つ者がいたことも明らかになっています。
 あわせてこの展示会では、安芸国分寺跡(東広島市)、下岡田遺跡(府中町)、郡山城下町遺跡(安芸高田市)、尾道遺跡(尾道市)、三日市遺跡(世羅町)、山崎遺跡(三次市)、吉川元春館跡(北広島町)など、奈良時代から安土桃山時代にかけての県内各地の遺跡から出土した木簡も紹介します。
(ふくやま草戸千軒ミュージアム(広島県立歴史博物館)下津間康夫)

令和3年度早春の展示「商い・遊び・祈り−木簡が語る中世−」
【会期】 令和4年1月21日(金)〜3月21日(月・祝)
【会場】 ふくやま草戸千軒ミュージアム(広島県立歴史博物館) 企画展示室(福山市西町二丁目4-1)
【開館時間】9:00-17:00(入館は16:30まで)
【閉館日】 月曜日(3月21日は除く)、2月1日(火)〜4日(金)
【入場料】一般290円(220円)、大学生210円(160円)、高校生以下・65歳以上無料
  ※( )は団体20名以上の料金

◆関連行事◆
1 記念講演会
 第1回  日時:2月5日(土)14:00-15:30
       演題:木簡と古代史
       講師:市大樹(大阪大学大学院文学研
       究科教授)
 第2回  日時: 2月19日(土)14:00-15:30
       演題:中国古代の木簡と竹簡
       講師:土口史記
       (岡山大学大学院社会文化科学研究科准教授)
 第3回  日時: 2月26日(土)14:00-15:30
       演題:安芸国分寺出土木簡をめぐって
       講師:佐竹昭(広島大学名誉教授)
 第4回  日時: 3月5日(土)14:00-15:30
       演題:木簡が語る商い・遊び・祈り
       講師:下津間康夫
       (広島県立歴史博物館学芸員)
       
2 展示解説会
 日時: 1月23日(日)、2月20日(日)
     時間はいずれも13:30-14:30

【問い合わせ先】ふくやま草戸千軒ミュージアム(広島県立歴史博物館)084−931−2513


灯明用の油を210文で購入したことを記す木簡


闘茶の「本非茶勝負」に用いられた闘茶札


梵字で不動明王と天こう(よんがしらの下に正)星(道教の神)を記す呪符