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広島文化賞受賞者に聞く 〜アーサー・ビナードさん(文芸・詩)

掲載日:2013年1月20日
今月のオンラインマガジンでは、「第33回 広島文化賞」を受賞された方を紹介しています。
前回に続いてお話を伺ったのは、個人の部受賞のアーサー・ビナードさん(広島市)です。

◆広島文化賞の受賞 おめでとうございます。
ありがとうございます。書き手として、詩人として、自分の足場が広島にあると感じています。これから語っていくうえで、大きな励みになると思います。

◆来日されて24年だそうですが、アーサーさんが当時感じられた日本語の魅力とは?
ニューヨークの大学で英米文学を専攻して、英語で詩を書こうとしていましたが、四年生のとき、ひょんなことで日本語に出合い、興味が「わいた」というよりも「沸騰」してしまいました(笑)。最初は文字に強烈に惹かれて、意味を孕(はら)む漢字と、表音文字のひらがなとカタカナを、自分のものにしたいと思いました。大学卒業と同時に来日して、日本語の中へ分け入ってみたら、今度は擬音語擬態語が面白くなって、むさぼるように覚えました。初期のぼくの日本語の詩を読みなおしてみると、オノマトペだらけで、使いたくて仕方がない雰囲気が伝わってきます。

◆そして今感じる日本語・日本文学と日本人とは?
日本語は、この世の森羅万象を言い表す「道具箱」として、とても優れていると思います。ただ、今の文学者は、ぼく自身も含めてですが、日本語の可能性をイマイチ生かせていない感じがします。経済の分野でも政治の分野でも、もちろん核開発と原子力に関しても、正式名称として使われている言葉と、物事の実態があまりにも大きくズレているので糺(ただ)して解体して表現を新たに作るしかないのです。でも日本語の文学者も、英語の文学者も、その大事な作業を怠ってきました。言葉が見抜くためのレンズにならなければならないのに、逆にペテンのレンズに成り下がっているのが現状です。そういう点では、現在の日本語に対しても、母語の英語に対しても、危機感を抱いていますね。

◆作品づくりで忘れられないエピソードがあればお聞かせください。
『さがしています』という絵本をつくっていくなかで、モノたちが語るための「証言台」が絶対必要だとわかり、いろいろ考えて探してやっと倉橋石の台にたどり着きました。けれど、そんな石が手に入るかどうか、作れるものかどうかわからず、模索していたときに、京面(きょうめん)龍(りゅう)という石工に出会いました。京面さんが倉橋島の石を切り出し、形づくって、そしてそれを平和記念資料館の地下倉庫に、仲間6人といっしょに運び込んでくださった朝は忘れられませんね。やっと本づくりが本当に始まる日でしたが、こっちの作業はすでに2年目に入っていました。でもその日に初めて、作品になるかもしれないと本気で思えたんですね。

◆今後に向けてひと言いただけますか?
ピカ(※)は昔話ではなく、過去のできごとではまったくないです。68年前に起きたことはすべて継続中で、今の問題としてとらえなければ、本質を伝えることはできないと思います。今年、ぼくは、広島を語る紙芝居をつくるつもりです。
※「ぴか」は原子爆弾の閃光を表す。「ぴかどん」は原子爆弾の俗称として、被爆当時に広島の子供が使い始めた語。(広辞苑より)


ありがとうございました。
日本的で人懐っこいお人柄が印象的なアーサーさん。作品に触れると、シンプルな表現の中に込められた深い想いを感じずにはいられませんでした。
「広島を語る紙芝居」の完成が楽しみです。

アーサー・ビナードさん


作品は、詩・エッセイ・絵本など・・・


写真絵本『さがしています』 (童心社)