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広島県立美術館 特別展「広島・長崎 被爆70周年 戦争と平和展」

掲載日:2015年7月15日
 今年は、戦後70年の節目であると同時に、広島・長崎にとって「被爆70年」の節目でもあります。年月を経て、両被爆地では被爆者の高齢化が進むとともに、被爆体験をいかに継承していくべきか懸念されています。こうした現況を踏まえ、被爆地の両県立美術館が協働して、展覧会「広島・長崎 被爆70周年 戦争と平和展」を開催します。芸術家によって戦争はいかに描かれ、継承されてきたか、4章構成で展覧します。

【第1章】総力戦の先触れ― ナポレオン戦争の栄光と悲惨
ナポレオン戦争(1803〜15)は、徴兵制を採用し、市民も軍事行動のターゲットとする点において、後の総力戦の先触れとなり、戦争の近代化を推し進めました。ナポレオンの御用画家たちは、ナポレオンの権威と戦争の勝利を称える歴史画・戦争画や肖像画を制作しました。他方、フランシスコ・デ・ゴヤはその同時代にありながら版画集『戦争の惨禍』において、戦争の凄惨な暴力と不条理さを痛烈に告発しています。

【第2章】最初の総力戦と次なる戦争の予感― 第一次世界大戦と両大戦間期の美術(1914〜1938)
第一次世界大戦(1914〜18)は、ヨーロッパだけではなく、植民地および日本・オスマン帝国・アメリカまでが参戦した世界戦争です。画家オットー・ディックスは、版画集『戦争』で戦場体験を迫真的に描き出し、戦争で我が子を失ったケーテ・コルヴィッツは、母の哀しみを作品に込めました。
また、戦中から両大戦間期にかけては、ダダ、抽象美術、バウハウス、新即物主義(マックス・ベックマン)、エコール・ド・パリ(藤田嗣治)、シュルレアリスム(ミロ、ダリ)など、戦争を直接的・間接的に反映した様々な美術の動向が噴出した時代となりました。

【第3章】史上最大の戦争と破局の表象― 第二次世界大戦と美術(1939〜1945)
史上最大の総力戦となった第二次世界大戦は5千万人以上の死者を数え、中でもホロコースト、広島・長崎に対する原爆投下など、未曾有の惨禍を引き起こしました。国家総動員体制下の日本においては、「彩管報国」(彩管=絵筆を執って国に報いる)の名の下に、宮本三郎や藤田嗣治など、多くの画家が戦争画を制作しました。戦後は、浜田知明、香月泰男などの一兵卒として従軍した芸術家が、かつての戦争やシベリア抑留の体験を表象しています。

【第4章】被爆70年― 広島・長崎に残された記憶のかたち(1945〜)
70年間、芸術家たちは、広島・長崎に起きた悲劇をいかに作品として描くことができるのか、という困難な命題に向き合ってきました。福井芳郎、丸木位里・俊、平山郁夫ら画家たちは、咀嚼する時間を要しながら、それぞれの方法で被爆体験と向き合い、原爆の惨禍を描き出そうとしました。また今日、こうした記憶を継承する営みは、広島・長崎と直接縁を持たない芸術家にも引き継がれています。ときに芸術家たちが苦悩し、ときに祈りを込めながら描き出した数々の作品を通して、平和の尊さを照らし出します。
(広島県立美術館学芸員 山下寿水)

■広島・長崎 被爆70周年 戦争と平和展
【期間】2015年7月25日(土)〜9月13日(日)
【会場】広島県立美術館(広島市中区上幟町2-22)
【開館時間】9:00〜17:00 会期中無休
※金曜日は20:00まで開館 ※入館は閉館の30分前まで ※7月25日(土)は10時開場
【入館料】一般800円(600円)円、高・大学生400円(300円)、中学生以下無料
※( )内は前売・20名以上の団体料金
【問い合わせ先】
広島県立美術館082-221-6246

図版1:テオドール・ジェリコー《突撃するナポレオン軍の将軍》 1810年頃
©東京富士美術館蔵 東京富士美術館イメージアーカイブ/DNPartcom
図版2:浜田知明《初年兵哀歌(歩哨)》 1954年 姫路市立美術館蔵
図版3:石内都《ひろしま#69》2007年 テルモ株式会社蔵
Donor: Abe, H. ©Ishiuchi Miyako

図版1


図版2


図版3