地域で伝承「蔵王のはね踊り」 掲載日:2009年2月15日
福山市蔵王地区で伝承されている「はね踊り」は、その名のとおり、「大胴(おおど)」、「諫鼓(かんこ)」、「鉦(かね)」の3種類の打楽器を奏でながら、「はね」あがるような所作をまじえて軽快に踊ります。その形態は江戸時代後期の隊形、所作をとどめています。
かつては雨乞いなどでも踊られていたが、現在は、毎年10月第3日曜日、蔵王八幡神社の秋季例大祭で踊られ、この地域の大イベントとなっています。
平成20(2008)年2月には広島県無形民俗文化財に指定され、10月には広島文化賞を受賞されました。
■この度は広島文化賞の受賞おめでとうございます。
小畠:ありがとうございます。保存会が発足して今年で35年目になります。先人たち、見守ってくださっている諸先輩方の力のおかげで続けてくることができました。
■「保存会」誕生のきっかけは?
小畠:昭和47年までは地域の青年団が主体で踊っていましたが、高度経済成長とともに勤めに出る者が増え、次第に踊り手が少なくなり、この年はわずか7人となりました。
「もうはね踊りができない、続けられない、なんとかしなければ」と考えて、町内各戸にアンケートをとりました。ほとんどの方から保存会設立の賛同を得ることができ、翌年の48年4月に結成されました。
今では蔵王町・南蔵王町の約2100世帯が会員です。平成2年からは大人だけではなく、子どもたちも踊りに加わることになりました。
■大規模な会ですが、どのようにまとめておられるのでしょうか。
小畠:町内会全体の組織としてのバックアップ体制ができております。町内会は七つの支部に分かれており、各支部長や役員だけでも80人近くいますからね、それだけでもイベントは十分できる。
昔は、踊りの所作も地区ごとに多少違っていたが、現在は指導講師が各支部に出て教える一点集中指導が整っています。
■毎年恒例の秋季例大祭はどのような様子なのですか。
小畠:毎年10月の第3日曜日が本祭で、その前日の土曜日に前夜祭が開催されます。踊り手たちは土曜日の夕方、神社境内に集結し、約2時間かけて奉納します。肩に掛けて脇で構える直径80cmほどの大太鼓「大胴」、胸に掛け前に吊り下げる小太鼓「諫鼓」、そして直径20cmの「鉦」の3種類の楽器を叩きながら舞います。
日曜日の本祭では、早朝から各支部それぞれ当番家の庭先で踊ります。その後、道路を「道行(みちゆき)」という踊りで移動し、午後4時ごろには、全員が八幡神社境内に集まってきます。踊り手は全体で約300人いますが、楽器は全部で105体なので交替しながら舞います。
藤井:踊りの間には、自然の恵みに感謝する意を込めて「中唄」も披露され、これはベテランの方でないと唄えません。踊り手の抱える太鼓は重いものは12kg〜13kg位あるから、踊るとみんな汗びっしょり。境内は踊リ手や多くの見物客が押し寄せ、それは大変な熱気と人出です。
■楽器はどれくらいの期間使えるものなんでしょうか?
羽原:大胴などは江戸時代からのもまだ現存しており、古いものでは作成年が「寛政」と太鼓の裏に記してあります。
藤井:先輩方からは太鼓や鉦など楽器や道具を粗末に扱ったらものすごく厳しく叱られます。大切に扱っていかなければならない。
■広島文化賞受賞に関しての皆さんの反応は?
小畠:今度の受賞で、実際やっている私らは、「本当なのか?」と信じられない気持ちがあり、とても感激しています。
しかし70、80代以上の先輩の方々の期待はなお大きく「もっと上を目指してがんばれ!今度は国の無形文化財指定だ。」とおっしゃっている。みんなこの踊りを地域の宝とし、伝承していくことに大変な誇りを持っているんですよね。現状に甘んじることなくもっともっと良くしていかなくては。
■保存会の特徴はどんなところにありますか?
田中:この会は、大人だけでなく子どもたちを含めて活動をしていることが大きい特徴です。
平成15(2003)年に文化庁の「伝統文化子ども教室実施団体」として指定を受け、学校教育の授業に取り入れて指導育成が行われるようになりました。伝承文化がこのような体制によって取り組まれ活動できているというのは大きな意義があります。
藤井:小学校では5、6年生が主体で指導を受けますが、地域では4年生以下の子ども、もっと小さな子どもたちもお兄ちゃんやお姉ちゃんを真似て知らず知らずのうちに覚えていきます。子どもたちの踊りを見ているとそれはかわいい。
■そうやって子どもたちも交えた他の地域との交流が広がっていくのでしょうか?
小畠:そうですね、他の学校とも合同練習などで交流しています。いずれ隣接した地域も、そこの子どもたちのためにももっと交流を深めて一緒に踊っていけるようにしていきたいと考えています。
他地域の中学校に入学した子どもが、そこで踊って見せたいからと太鼓を借り舞って見せたら、クラスのみんなが習いたいといいだし、一緒に教えたり習ったりしたということもありました。このように県外へ、更には世界へと拡がっていくことができればよいと思っています。
■将来の夢はありますか?
小畠:全世帯に、この家には「大胴」、この家には「諫鼓」というように、どれか楽器1種類を保有させ家の宝とさせたい。子どもが生まれたなどの慶びごとがあるとその都度楽器を持たせていけば、いつでも地域の宝物の一つが家に置いてあることから、踊りに対する認識も更に高まっていくと思います。
二つめは、形あるものを造ること。踊りは無形文化財ですから「はね踊り記念会館」を建て、音と映像ではね踊りが見れるようにし、身近に感じてもらいたいという夢があります。
そしてもう一つが、保存会設立の際の「いずれは国の無形文化財指定に」という目標を実現することです。後を受け継ぐ者たちに形と心を伝えていく、それが私らの使命です。
今年3月頃には、「蔵王のはね踊り」に関する歴史や所作や唄を全て網羅した記念誌が発行される予定で、楽しみなんですよ。
本日はありがとうございました。今後もますますのご発展をお祈りします。 (福山分室 安倍・山本) |
蔵王八幡神社の奉納
蔵王はね踊り保存会のみなさん
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