文化財の保存は、博物館活動の大きな柱の一つです。しかし、「形あるものは、必ず崩れる。」といわれるように、どんなに保存に気を配っても文化財も必ず劣化したり、損傷したりします。
博物館に収蔵している文化財も少なからず同じ運命をたどります。ただ、「劣化のスピードをできるだけ遅くする。」ために、劣化の要因となる温度・湿度・紫外線・害虫等を管理しながら、収蔵し、また展示します。
今回の展示では、文化財の修理について、その方法や意義を、広島県立歴史博物館所蔵の重要文化財「広島県草戸千軒町遺跡出土品」と「菅茶山関係資料」等を紹介しながら考えます。
ところで、博物館が取り扱う資料の中には、長い間土の中に埋もれていた考古資料や民家等に伝わった文書や絵画がありますが、博物館へ来た時点で、割れていたり、シミや破れがある場合が多く見られ、これらの文化財は、長く保存をしていくために修理をします。
そして、文化財の修理には、「現状保存(もとの状態を保つ)」という原則があります。「もとの状態」とは、文化財ができたときの姿?、それとも今の状態?、正解は、原則として今の状態をなるべく保存するです。長い年月を経た文化財は、汚れたり、サビがついていたりしますが、それも現在に伝わった文化財のたどった歴史だからです。また、修理をすることで、その文化財がどのような歴史をたどったのかが分かることがあります。修理に際しては、過去の保存修理の情報や状態から、作られた当時の姿に戻す場合もあります。こうした情報も一緒に未来に伝えていきます。
写真の資料は星野文良(ほしの ぶんりょう)画「廉塾図(れんじゅくず)」です。表装されていない「まくり」といわれる状態で、乾燥による割れがあり欠損した状態でした。修理では、状態を確認した上で、旧裏紙を除去し、クリーニング、剥落止めを施した後、新しい裏紙を施しました。この裏紙は、可能な限り本紙(描かれた紙)の酸化を防ぐために,炭酸カルシウムが漉き込まれた美濃紙を使っています。
また、展示や収納を考慮してマット装(台紙を利用したもの)として資料に変化を加えることなく、移動・展示・収納ができるようにしました。
この修理の過程では、「廉塾図」は、四辺の端に糊の跡が確認され、元は、額装であった可能性が分かりました。
(ふくやま草戸千軒ミュージアム(広島県立歴史博物館)主任学芸員 岡野 将士)
「過去を知る・未来へ伝える−文化財の保存と修理−」平成30年度秋の展示
【会期】平成30年10月12日(金)〜11月4日(日)
【会場】ふくやま草戸千軒ミュージアム(広島県立歴史博物館)(福山市西町2-4-1)
【開館時間】9:00〜17:00(入館は16:30まで)
【休館日】月曜日
【入館料】一般290円(220円) 大学生210円(160円) 高校生まで無料
※( )内は20名以上の団体
【問い合わせ先】ふくやま草戸千軒ミュージアム(広島県立歴史博物館)084-931-2513 |
廉塾図 星野文良画 修理前(修理前は、乾燥が進み紙がもろくなっていました。)
廉塾図 星野文良画 修理中(古い肌裏紙を除去し、新しい肌裏紙を貼っています。)
廉塾図 星野文良画 修理済(保存、展示しやすいマット装で仕上げました。)
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