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この世界の片隅に―漫画家こうの史代さん

掲載日:2010年3月1日
 戦時中の呉を舞台にした漫画、『この世界の片隅に』が第13回文化庁メディア芸術祭の優秀賞を受賞しました。作者は、広島市西区出身のこうの史代さん。戦後の広島で育ったこうのさんが描くのは、当時の日常。今回、こうの史代さんをお招きし、お話しを伺いました。

◆ 文化庁メディア芸術祭での優秀賞おめでとうございます。文化庁メディア芸術祭での受賞は2回目ですね。
 ありがとうございます。前回の受賞作『夕凪の街 桜の国』は読み切り作品でしたが、今作『この世界の片隅に』はこれまで得意としてきた短編連載の作品でした。ただ戦争が主人公ですので、最後の最後を描き上げるまで、これでよいのかどうか・・・悩みっぱなしでした。戦争漫画は描かれた時代の受け止められ方も含めて、ひとつの作品だと思います。この賞をいただいたことで、うれしいと同時にやっとほっとすることができました。読者からも「よく描いてくれた」といったお手紙をいただいたりして、ありがたいです。

◆ 『この世界の片隅に』のポイントは?
 水兵になった幼馴染みが主人公を訪ねて来るシーン(※1)と、ラジオで敗戦を知るシーン(※2)は、この作品の戦争漫画としての値打ちを決める重要な場面です。とにかく資料をおいかけて、戦時中の人の価値観に浸る努力をしながら、どうやって現代人にもわかるように描くか、連載を始める前から本当にぎりぎりまで、ずっと考えていました。・・・大変追い詰められて、精神的にもくたくたになりました。

◆ 今後の予定は
 今、大好きな『古事記』の漫画化を手掛けています。『古事記』は今、面白い現代語訳がたくさん出ていますが、どうしても原文や書き下し文の簡素でおちゃめな味わいは薄まってしまう気がします。漫画ならば、絵がついているので、原文や書き下し文の魅力をそのままに、親しみやすい表現ができるのではないかな、と思っています。大嫌いな「戦争」を描いた後なので、しばらく好きなものを描かせてもらうつもりです。広島をまた描くとしたら、市電の話なんかがいいなぁ・・・。呉はいい資料が残されているので、昭和初期などに挑戦してみたいです。現在も、過去になって歴史となってゆくんですよね。身の回りのいろんな幸せを書き留めてゆけるといいです。

ありがとうございました。
かわいく描いてもらい、ブンカッキーもよろこんでいます。
ますますのご活躍を楽しみにしています!

※1:「この世界の片隅に(中)」(双葉社)
※2:「この世界の片隅に(下)」(双葉社)




『この世界の片隅に(上)』 双葉社