今回は、広島市在住の書家・刻字作家の安達春汀さんをご紹介します。刻字分野の第一人者として国内外で幅広く活躍されている安達さんに、刻字の魅力や今後の活動に向けるお気持ち等についてお聞きしました。
◆「刻字」の魅力はどのようなところにあると思われますか？
自然の木の温もりが感じられ、その木肌の上に文字が成り立つという点ですか。書は、墨の濃淡で表現する奥深い妙技に心惹かれ、筆も紙もやわらかい。刻字は道具の刀も材料の木も硬い。書く瞬発力と刻る持続力、その相反するものを如何に自分流に表現するか、その醍醐味を楽しんでいるような気がします。書体、彫り方、彩色、素材によって工芸の世界に迄広がりのある 飽きのこない世界に浸ることが出来ます。
◆ノミを木槌で打って板を彫るという作業は肉体的にハードなことのように思えますが･･･？
ハードな仕事と思われるでしょうね。大作を彫り上げるには体力も時間もかかりますが、精神的なリズムが保たれていれば大丈夫です。そのときの心境に合う音楽を聴きながら淡々と彫っていけば、いつの間にか仕上がったということもよくあります。
慣れと熟練の賜物でしょうか。無理をしたことも多々ありましたが、これからは「書く」「刻る」「想いを回らす（めぐらす）」の均衡を調整しながら、よりじっくりと仕事に取り組みたいと思っています。
◆現在、ニューヨークでの個展に向けて準備中でいらっしゃるそうですね。その意気込み等 お聞かせください。
20年来、ヨーロッパ（主にドイツ）での活動が多かったのですが、ニューヨークのお話も良い機会だと思い、私なりにニューヨークの空気を作風に取り入れたいと渡米しているところです。うす墨色の桜、富士の山等、日本古来の風景をニューヨークのビルの中に再現したいと思っています。
◆刻字を鑑賞するにあたって、またはこれから刻字を始めてみたいと思っている方に向けて メッセージをお願いします。
完成すると充実感があります。「この言葉が書きたい」、「この文字を彫りたい」という一心で入門され、ノミやツチに戸惑いながらも一作仕上げる毎に道具に慣れ上達している姿を見て、私も嬉しく思っています。
刻字は、とりあえずは書くことが基になりますが、上手く書けなくても怖がらないで！例えば「花」という一文字でスミレやバラの花、牡丹等を表現するとしたら、使用する筆や書体でその花らしくなります。小学生の見る「夢」、成人式を迎える若者・還暦を迎える人の「夢」では自ずと表現が変わってきます。書体や彫り方の手法で一つのテーマから百種百様の作品が創れるという果てしない楽しみが生まれます。自書自刻の達成感を味わえる芸術だと思っています。
ありがとうございました。
何でも“お手軽”ブームで、自筆の機会すら減りがちな今だからこそ、文字と向き合って好きなことばを見つけたり･･･そんな心のゆとりを忘れずにいたいですね。
個展の成功と今後益々のご活躍をお祈りしています。 |
平成22年11月22日 広島文化賞贈呈式にて
作品 「銀」 24×28cm
ドイツ ハノーバー市 マルクトキルヒェ広場でのパフォーマンス
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